お酒の解説 日本酒の製造工程を学ぼう – ⑤酒母造り 2023/06/28

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本シリーズでは、日本酒の製造工程ひとつひとつに焦点を当ててご紹介をしていきます。

本記事では「酒母造り」について詳しく解説します。

酒母(しゅぼ)造りとは?

酒母のようす
酒母

酒母造りとは、アルコール生成の役割を担う「酵母菌」を大量に培養し、お酒のもととなる酒母(しゅぼ)を造る工程です。

酒母は伝統的な用語で「酛(もと)」とも言い、酒母造りのことを「酛造り(もとづくり)」、「酛立て(もとだて)」とも言います。

日本酒造りでよく言われる「一麹、二酛、三造り」の「酛」であり、日本酒造りで2番目に重要とされている工程です。

酒母造りのポイント

さて、酒母造りではアルコールの生成に必要な酵母菌を育成しますが、そのままでは有害な雑菌も増えてしまいます。

いかに雑菌の繁殖を抑えつつ、酵母菌だけを増やすかが酒母造りのポイントとなります。

そこで活躍するのが「乳酸」です。

乳酸のはたらき

乳酸とは、乳酸菌が糖を分解することによって作られる、強い酸性の物質です。

酵母菌は酸性度の高い環境下でも増殖ができます。

一方、その他の雑菌は酸性に弱いため、酒母の中に乳酸を大量に含ませることによって、有害な雑菌の繁殖を抑えつつ、酵母菌だけを安全に増やすことができるのです。

乳酸の働き

酒母造りの種類

酒母造りでは、乳酸が重要な働きをすることがわかりました。

酒母造りは、その乳酸の取り入れ方によって、人口の乳酸を添加する「速醸系」と、天然の乳酸菌を取り込む「生酛系」の大きく2種類に分けられます。

ここでは、さらに細かく、代表的な造り方として4つをご紹介します。

酒母造りの種類

速醸酛(そくじょうもと)【速醸系】

酒母を造る際に、蒸米、麹、水、酵母と共に精製した乳酸を加える方法です。

明治時代に純度の高い乳酸が入手できるようになって考案された、比較的新しい手法です。

約2週間という短期間で安全に酒母を仕上げることができ、現在では最も一般的な製造方法となっています。

生酛(きもと)【生酛系】

蒸米、麹、水を櫂(かい)という道具を使ってすり潰し、天然の乳酸菌を取り込んで乳酸を生成します。この作業を「山卸(やまおろし)」と言います。その後に酵母菌を添加して繁殖させます。

山卸の作業は複数人で行うため、拍子をそろえたり作業時間を計る時計代わりとする目的で、酛すり唄を斉唱しながら行われていました。

非常に重労働で、かつ完成までには約1ヶ月と長い期間がかかります。

山卸の様子
山卸の様子(写真提供:渡辺酒造店)

山廃酛(やまはいもと)【生酛系】

山廃酛も天然の乳酸菌を取り込んで乳酸を生成しますが、生酛と異なり、「山卸(やまおろし)」の作業を行わず、麹の力だけで米を溶かします。

生酛の工程から「山卸しの工程を廃止」したため、「山廃」と呼ばれます。

完成までには約1ヶ月かかります。

菩提酛・水酛(ぼだいもと・みずもと)【生酛系】

菩提酛とは、鎌倉時代以降に奈良県で編み出されたとされる造り方です。

酒母造りの前に、生米と蒸米を水に浸けて乳酸菌を繁殖させた「そやし水」を作ります。

その後、蒸米、麹、酵母とともに「そやし水」を仕込み水として投入し、酒母を造ります。

完成には約1ヶ月程度かかります。

現在では奈良県や岡山県を中心とした一部の地域でのみ採用されている珍しい手法です。

そやし水
そやし水の仕込み初期段階。岡山式では米麹を使ってつくる。(写真提供:板倉酒造)

まとめ

本記事では、「酒母造り」について詳しくご紹介しました。

伝統的な手法から新しい手法までさまざまな造り方があり、日本酒造りにおいても技術革新が進んでいることが実感できる工程でした。

次回は「仕込み」についてご紹介いたします。