お酒の解説 生酛造り(きもとづくり) 2023/08/23
日本酒にまつわる用語をとりあげてご紹介していきます。日本酒に興味のある方、資格取得などに向けて勉強されている方の知識習得にもお役立ていただけるよう、できるだけ専門用語をつかわずカンタンな内容で解説していきたいと思います。みなさんも一緒に学んでいきましょう!
生酛造りとは?
生酛造りとは、日本酒のもととなる酒母(しゅぼ)を造る手法のひとつで、天然の乳酸菌を取り込み、手作業で酒母を造る伝統的な方法です。
酒母造りは、大きく分けて速醸系と生酛系の2つに分けることができます。
人口の乳酸を添加するものが速醸系、空気中や蔵のなかにいる乳酸菌を取り込んで育成するものが生酛系です。
生酛造りは、生酛系の中でも最も昔ながらの伝統的な手法で、山卸しという工程が入ります。
山卸し(やまおろし)とは?
山卸し(やまおろし)とは、蒸米や米麹をすりつぶす作業で「酛摺り(もとすり)」ともいいます。
浅い桶の中に蒸米・米麹・水を入れ、櫂(かい)という棒を使って、あるいは足で踏んですりつぶします。
通常この作業は、雑菌の繁殖しにくい時期に行う必要があるため、冬の寒い時期に深夜から早朝にかけて、3段階程度に分けて行われます。
厳しい環境下で数トンもの蒸米をすりつぶすため、酒蔵にとっては大変な重労働で、かつ、その年の米や温度・湿度などに合わせてすりつぶし加減を見極めながら行う職人技の作業です。
生酛造りの歴史
生酛造りの源流となる製法は、今から300年以上も前の1700年頃、江戸時代中期には存在していました。
しかし当初は山卸作業はなく、櫂を使った攪拌など一部の手作業によるものだったようです。
その後山卸が生まれ、1800年代初頭に現在の生酛造りが確立したと言われています。
生酛造りでは、天然の乳酸菌から、有害な雑菌の繁殖を抑えるのに役立つ乳酸が育つのを待ちます。
酒母の完成には3〜4週間と長い時間を要し、先述したように、山卸作業はかなりの重労働でした。
また乳酸が増殖するのを待つ間に有害な雑菌が繁殖してもろみが腐ってしまうことも多々あり、酒蔵を悩ませていました。
そのため、生酛よりも安全で効率よく完成できる速醸造りが現在では主流となっています。
その一方で近年、伝統的な酒造りの見直しによって生酛造りに再注目が高まり、復活させる蔵も増えています。
各蔵では、電動の攪拌機や電動ドリルを使うなど、伝統と現代の技術を組み合わせた工夫が見られます。
生酛造りのお酒の味わい
生酛造りで造られたお酒は、微生物たちのなかを生き抜いた強い酵母で仕込まれるため、力強く野生味を感じられる味わいになると言われています。
口に含み飲み込んだ後も、味わいの余韻が長く続くのも生酛造りの特徴です。これを日本酒用語で「押し味」といいます。
また生酛で造られたお酒は、熟成の速度がゆっくりで時間経過による品質劣化が少なく、熟成によってより美味しく成長すると言われています。
- 濃醇な深いコクがある、野生味のある力強い味わい
- 独特の押し味があり、コシが強い
- 劣化しにくく、熟成に向いている
まとめ・復習
- 生酛造りとは、天然の乳酸菌を取り込み手作業で造る、伝統的な酒母造りの手法
- 山卸(やまおろし)という作業工程がある
- 味わいは力強く、固有の押し味が特徴
酒母造りの工程やその他の手法について知りたい方は、ぜひこちらもご参考にしてくださいね。