お酒の解説 日本酒の製造工程を学ぼう – ⑨火入れ 2023/07/04
本シリーズでは、日本酒の製造工程ひとつひとつに焦点を当ててご紹介をしていきます。
濾過によって見た目や味を整えたら、次は加熱処理を行なっていきます。
本記事では「火入れ」について詳しく解説します。
火入れとは?
火入れとは、加熱処理のことです。
温度が高すぎるとアルコールが揮発してしまうため、60~65℃の低温の熱を加えます。
火入れの目的
1. 発酵を止める
火入れをしていない日本酒には酵母菌が残っており、発酵を続けています。
火入れをすることで酵母菌の働きを止め、味の変化を防ぎます。
2. 殺菌する
火入れには、雑菌を死滅させ、酒質を安定化させる意味もあります。
日本酒には乳酸菌の一種である「火落ち菌」と呼ばれる大敵がおり、日本酒のなかで火落ち菌が増殖することを「火落ち」と言います。
日本酒は火落ちすると白く濁って酸化し、ツンとした酸っぱい嫌な匂いが出て、大幅に品質が劣化してしまうため、火入れをすることで殺菌をし、劣化を防ぎます。
火入れの手法
火入れにはいくつかの手法がありますが、ここでは3つの手法をご紹介します。
プレートヒーター
螺旋状に巻かれた「蛇管」と呼ばれるパイプをお湯の中に入れ、そのパイプの中に日本酒を通すことで熱を加える手法です。
一度温められた日本酒は、冷水が回っているプレートを通って急速に冷却されます。
この方法では、短時間で効率的に加熱・冷却ができますが、完全に殺菌しきることができないため、瓶詰めの直前に2回目の火入れを行うのが一般的です。
瓶燗
瓶にお酒を詰めた状態で、瓶ごと湯煎する方法です。
酒屋や飲食店でよく見るP箱というケースに瓶を詰めて、水から加熱します。火入れが終わったら、冷水につけ、瓶を回しながら均一に冷却していきます。
この方法では、一回の火入れで十分加熱殺菌ができるため、香りや味が損なわれにくいというメリットがあります。
ただし手作業で人手がかかかるため、重視される大吟醸や純米大吟醸などの、特に香りが重視される特別なお酒で用いられることが多い手法です。
パストライザー
瓶にお酒を詰めた状態でベルトコンベアに乗せ、高温のシャワーをかけて加熱する方法です。加熱後は冷水のシャワーをかけて冷却します。
自動化により手間を削減しつつ、瓶燗のメリットを享受できる最新の方法です。
火入れの有無・タイミングによる名称の違い
火入れの有無や、火入れを行うタイミングによって、味わいや名称が異なります。
一般的な日本酒
火入れは、通常、貯蔵前と出荷前の2回行うのが基本です。
ラベルに生酒、生貯蔵酒、生詰酒などと記載されていない日本酒は、基本的に2回火入れを行った日本酒です。
最近では、火入れ技術や保管技術の進歩により、1回火入れや、全く火入れを行わずに出荷する日本酒も増えてきています。
生酒
生酒は、一度も火入れをしない日本酒です。
火入れをしないため酵母菌が生きており、瓶の中でも発酵が進みます。
ピチピチと弾ける微発泡が感じられる、フレッシュな味わいが特徴です。
生貯蔵酒
生貯蔵酒は、出荷前に1回火入れを行う日本酒です。
1回目の火入れをせずに生のまま貯蔵するため生貯蔵酒と言います。
生のまま貯蔵するため、フレッシュ感を残しつつ、特有の風味が感じられる味わいです。
生詰酒
生詰酒は、貯蔵前に1回火入れを行う日本酒です。
2回目の火入れをせずに瓶詰するため生詰酒と言います。
2回目の火入れをしないため、瓶のなかで熟成が進みやすく、熟成感がある味わいが特徴です。
まとめ
本記事では、「火入れ」について詳しくご紹介しました。
出荷後、流通・保管されて私たちが飲むそのときまで、味や香り、品質が損なわれないように考えられた造り手の想いを感じられる工程でした。
次回は「貯蔵」についてご紹介いたします。