お酒の解説 日本酒の製造工程を学ぼう – ⑥仕込み 2023/06/29
本シリーズでは、日本酒の製造工程ひとつひとつに焦点を当ててご紹介をしていきます。
酒母造りでお酒のもとが完成したら、いよいよ「仕込み」です。
本記事では「仕込み」について詳しく解説します。
目次
仕込みとは?
仕込みとは、蒸米、麹、酒母と水をすべてタンクに入れて醪(もろみ)を造り、アルコール発酵を進める工程です。「造り」とも言います。
日本酒造りの重要な工程を示す言葉「一麹、二酛、三造り」の「造り」はこの工程を指しています。
これまでの工程で準備してきた蒸米、麹、酒母というパーツを組み合わせる、大詰めの作業と言ってもよいでしょう。
仕込みの作業
前工程でご紹介した酒母は、酵母菌や乳酸が大量に培養された高濃度な状態です。
ここに一気に大量の蒸米、麹、水を投入すると、酵母菌や乳酸が急激に薄まり、雑菌が繁殖しやすくなってしまいます。
それを防ぐため、仕込みの際には、材料を何回かに分けて投入していきます。
これを「段仕込み」と言い、3回に分けて仕込めば「三段仕込み」、4回に分けて仕込めば「四段仕込み」となります。
ここでは、最も一般的な「三段仕込み」の工程についてご紹介します。
三段仕込み
3回の仕込みをそれぞれ「添(そえ)」「仲(なか)」「留(とめ)」と呼びます。
添の翌日は「踊(おどり)」と言い1日休ませるため、計4日間かけて行うのが一般的です。
1日目:初添え(はつぞえ)、添仕込(そえじこみ)
タンクに酒母を入れ、そこに蒸米、麹、水を投入して混ぜ合わせます。
この際に投入する蒸米、麹、水は酒母の2倍程度。
少量の原料を投入し、まずは眠っていた酵母菌を活性化させ、増殖させます。
2日目:踊り
2日目は仕込みをせず、酵母菌が十分増えるのを待ちます。
3日目:仲添え(なかぞえ)、仲仕込(なかじこみ)
初添えの約2倍の量の蒸米、麹、水を投入します。
4日目:留添え(とめぞえ)、留仕込(とめじこみ)
仲添えのさらに約2倍の量の蒸米、麹、水を投入して仕込みを終え、もろみの発酵を進めます。
発酵の過程
仕込みが終わったら、約20-30日間かけてもろみを発酵させます。
放っておくと発酵によって起こる熱で温度が上がってしまうため、温度管理が重要となります。
低温状態を保ちながらゆっくりと発酵を進めることで、雑味の少ない、華やかな香りのお酒が出来あがります。
ここで一度「発酵」の仕組みを確認してみましょう。
糖化と発酵
糖化:麹菌のはたらき
「糖化」とは、でんぷんを糖に分解することです。
日本酒造りにおいて麹菌は、米のなかに含まれるでんぷんを糖に分解する役割を担います。
発酵:酵母菌のはたらき
「発酵」とは、糖をアルコールと炭酸ガスに分解することであり、酵母菌がその役割を担います。
酵母菌は米に含まれるでんぷんを直接分解することができないため、まず麹菌がでんぷんを分解して糖を生成し、その糖を酵母菌が分解することで、アルコールを生成するのです。
並行複発酵(へいこうふくはっこう)
日本酒の製造では、「糖化」と「発酵」がもろみの中で同時並行で行われます。この発酵形式を「並行複発酵」と言います。
並行複発酵では、糖化によって糖が生成されるのと同時に発酵によって消費されていくため、糖の濃度が低い状態が維持されます。そのため酵母に負荷がかかりにくく、アルコール度数の高いお酒の製造が可能となります。
並行複発酵は、日本酒独自の発酵形式であり、他の醸造酒では見られない特徴的な製造方法です。
アルコール添加
精米の工程で、日本酒は、米・米麹・水のみを原料とした「純米系」と、醸造アルコールが添加された「本醸造系」の大きく2種類に分けられることを解説しました。
「本醸造系」の日本酒を造る場合には、次の絞りの工程に移る1〜2日前に醸造アルコールを添加します。
醸造アルコールとは?
醸造アルコールは、サトウキビやトウモロコシ、サツマイモなどを原料とした蒸留酒で、度数95%の高純度のアルコールです。
平たく言えば「焼酎甲類のアルコール度数が高いもの」です。
純度が高く、味や香りはほぼありません。
添加する際は、アルコール度数を30%程度まで希釈してから添加します。
アルコール添加の目的
アルコールを添加することで得られる効果としては、以下のようなものがあります。
- 殺菌効果で酒質が安定し、劣化しにくくなる
- すっきりとした軽快な淡麗辛口の味わいとなる
- アルコールに酵母によって生成された香り(吟醸香)が溶け込み、華やかな香りが引き出される
アルコール添加量
添加できる醸造アルコールの重量は、酒税法によって上限が定められています。
- 特定名称酒の場合:白米重量の10%以下(アルコール分95%換算)
- 普通酒の場合:白米重量の50%以下(アルコール分95%換算)
アルコール添加と言うと質の悪い安酒といったイメージがある方もいらっしゃるかもしれませんが、添加できる量には制限があり、お酒の品質を高めるために行われているのです。
まとめ
本記事では、「仕込み」について詳しくご紹介しました。
今までの工程で準備してきたものをすべて使って日本酒を作り上げる、まさにクライマックスとも言える工程でした。
次回は「絞り」についてご紹介いたします。